日本初記録の水生昆虫を発見(トゲトゲバゴマフガムシ)
石川県ふれあい昆虫館の渡部晃平学芸員、福岡県保健環境研究所の中島 淳専門研究員の研究チームが、日本未記録の水生昆虫を発見し、その研究成果が、日本甲虫学会が発行する学術誌「Elytra New Series」に掲載されました。
研究の成果
福岡県で採集された標本を基に、国内で初めてBerosus (Enoplurus) spinosus (Steven, 1808) を発見し、トゲトゲバゴマフガムシという和名をつけました。
トゲトゲバゴマフガムシはコウチュウ目ガムシ科に属する水生甲虫の一種で、ヨーロッパ、北アフリカからアジアにかけて記録されている広域分布種です。本種が属するトゲバゴマフガムシ亜属は上翅の末端にトゲを備えるのが特徴で、類似種が多いことから同定が困難なグループでした。今回の研究では、日本産全8種の標本や海外の文献に記述された特徴を比較し、福岡県産の個体群には前胸背に黒色の斑紋があること、オスの上翅末端のトゲの内側は丸みを帯びること、オス交尾器の特徴などから日本未記録の本種であると同定されました。
本研究により、日本には9種のゴマフガムシ属が分布することが明らかになりました。また、この9種の名前を調べるための検索表を改訂し、今後ゴマフガムシ属が採集された際には、正確な種同定ができる情報を提示しました。
展望
本種はトゲバゴマフガムシ亜属の類似種と非常に良く似ていることから、近縁種と混同されてきた可能性があります。今回改訂された検索表に基づいた過去の標本の調査が行われることにより、国内における正確な分布状況の解明が期待されます。
著者より一言
本種は現時点で福岡県の1地点でのみ確認されています。ヨーロッパから朝鮮半島に至る広範囲に分布していることから、九州北部に自然分布していても違和感はなく、区別が難しいグループであるために、これまで見逃されてきた可能性があります。一方で、発見場所は人工のビオトープであり船の往航が盛んな博多湾内であることから、船を介した人為移入の可能性も否定できません。今回の発見を契機に、特に九州周辺で採集された古い標本の調査が進むことで、上記不明点が解決していくことが期待されます。また、在来か外来か不明な現段階では、この貴重な個体群が絶滅しないよう注意していく必要があると考えられます。
論文情報
論文タイトル:The first record of Berosus (Enoplurus) spinosus (Steven, 1808) (Coleoptera, Hydrophilidae) from Japan
掲載誌:Elytra New Series, 第11巻2号
著者:Kohei Watanabe (渡部晃平)・Jun Nakajima(中島 淳)
論文ダウンロードページ(掲載後に下記からダウンロードできます。):http://kochugakkai.sakura.ne.jp/publication/elytra/elytra-bibliography.html